法律勉強道

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刑法総論試験対策 過剰防衛

「過剰防衛について事例を2つ挙げて説明せよ。」
1. 過剰防衛とは、急迫不正の侵害に対し、防衛の意思で、防衛の程度を超えた反撃行為を
行った場合をいう(36 条 2 項)。過剰防衛といえるためには、正当防衛の要件のうち、
防衛行為の相当性以外の要件はすべて満たしている必要がある。過剰防衛行為につい
ては、犯罪の成立は否定されないが、情状により刑を減軽又は免除することができる
(任意的減免)。ここで、刑の任意的減免の根拠について争いがある。
⑴ この点について、緊急事態に直面して精神的動揺から行き過ぎた行為に出ることは
無理からぬことがあるとして、この刑の減免根拠を期待可能性の低下に求める「責任
減少説」と、限界を逸脱したとはいえ急迫不正の侵害に対して正当な利益を保全した
分だけ通常の犯罪に比べて違法性の程度が低いという点に刑の減免根拠を見出す
「違法減少説」が対立している。
私見では、条文上任意的減免であることを考えれば、責任減少的であり、一方で「防
衛の程度を超えた」という要件から違法減少的であると解される。そこで、条文の文
言を基礎としつつ、過剰防衛における刑の減免根拠を違法または責任の減少に求め、
いずれか一方だけの減少でも刑の減軽の可能性を認める択一的併用説が妥当であろ
う。
2. 次に過剰防衛の類型について検討する。
ア 過剰防衛の過剰性は、防衛行為が必要性・相当性を逸脱した「質的過剰」と、反撃行
為が急迫不正の侵害終了後まで続いた「量的過剰」に分類される。このうち、量的過
剰については、問題となる行為を全体として1個の行為と捉えるか、それとも、急迫
不正の侵害が止んだ時点を分岐点として第1行為と第2行為に分断して捉えるかに
より、結論が大きく異なってくる。
イ すなわち、まず、全体として 1 個の行為と捉えれば、全体として過剰防衛が成立する
ことになる。
ウ 他方、行為を分断して考えれば、第1行為は正当防衛といえるものの、急迫不正の侵
害が止んだ後の第2行為は、正当防衛はもとより過剰防衛にすらならないことになる。
その結果、第1行為は違法性が阻却され不可罰、第2行為は完全な犯罪として処罰で
きる、ということになるのである。
エ では、いかなる場合に全体として1個の行為と捉え、またいかなる場合に行為を分断
して捉えるべきか。以下、事例を用いて検討する。
⑴ 〔事例1〕拘置所に拘留中のⅩは、同室の A から折り畳み机を自分の方に押し倒
される暴行を受けたため、同机を A の方に押し返し(第1暴行)、さらに同机に当
たって倒された反撃・抵抗が困難になった A の顔面を数回殴打した(第2暴行)事
案がある。最高裁は、「Ⅹが A に対して加えた暴行は、急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり、同一の防衛の意思に基づく一個の行為と認めることができ
るから、全体的に考察して一個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相
当である」とした。
⑵ 〔事例2〕A からアルミ製灰皿を投げつけられたⅩは防衛のため A の顔面を殴打
した(第1行為)。その結果、A は転倒し動かなくなった。Ⅹは、さらに A の腹部を
足げにしたり踏みつけたりして傷害を負わせた(第2暴行)。A は、第1暴行が原因
で死亡した。この事案において、最高裁は、Ⅹは A からのさらなる暴行の可能性
がないことを十分認識したうえで、専ら攻撃の意思に基づいて第2暴行に及んで
いるから、A による侵害の継続性およびⅩの防衛の意思の有無という点で、明らか
に性質を異にし、第1暴行と第2暴行には断絶があるから、1 個の行為として過剰
防衛を認めるのではなく、第1暴行に対して正当防衛を、第2暴行について、傷害
罪の成立を認めるべきであるとした。
⑶ 以上より、判例は、①第2行為の時点で、当初の防衛の意思が継続していたか、そ
れとも専ら攻撃の意思だったのか、②行為者が、被害者が更なる侵害行為に出る可
能性がないことを認識していたか否か、③第3行為の様態・程度等を総合的に考慮
して、全体として 1 個の行為とするか、行為を分断して捉えるかを判断している者
と解される。
3. このように、過剰防衛は反撃行為が正当防衛の要件のうち、行為の相当性以外の要件を
みたす場合に、刑が成立したことを前提にその刑の任意的減免事由となるものであり、
その過剰性の判断は類型ごとに、客観的に判断されるものである。

以上