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刑法総論試験対策 共謀共同正犯

「共謀共同正犯について事例を4つ挙げて説明せよ。」
1. 共謀共同正犯とは、2人以上の者が特定の犯罪を行うための謀議をし、そのうちの一部
の者がこれを実行する場合をいう。では、こうした共謀共同正犯も「共同正犯」に当た
るのであろうか。この問題につき、判例は一貫してこれを肯定してきた。また、今日に
おいては学説上もこれを肯定する見解が支配的であるといえよう。
2. もっとも、共謀共同正犯を肯定する理論的根拠、すなわち、実行行為を行っていないも
のも含めて「共同正犯」に当たるといえるのはなぜなのかという点については、なお学
説上の争いがある。以下、検討する。
⑴ まず、共謀により「同心一体的」な共同意思主体としての団体が成立し、その団体が
実行行為を行った以上、共謀者も「正犯」といえるとする共同意思主体説がある。し
かし、個人を超えた共同意思主体を認め、その責任が個人に帰せられるとすることは
団体責任を認めることに等しく、個人責任の原則に反する。
⑵ そこで、背後者が、実行行為者の意思に直接作用し、犯罪を遂行させているものとみ
られる場合には、構成要件該当事実全体に対して共同支配を及ぼしているものとし
て共同正犯を認めることができるとし、あるいは、犯罪の遂行について確定的な合意
がある場合には、その後の行動は合意によって拘束され、実行者は自らの一存で実行
の意思を放棄することが困難となることから、実行者は他の共謀者の道具として振
舞っていると評価しうるとする間接正犯類似説がある。ここでは、60 条によって「共
同して実行した」といえる程度に修正・緩和された行為支配が認められる限度で共謀
共同正犯を肯定することができると考えるべきであろう。
3. 以上のように共謀共同正犯の理論的根拠を、相互利用補充関係のもと、結果に対して物
理的・心理的因果性を及ぼしたという点に求める以上、実行共同正犯と同様に、相互利
用補充関係ないし物理的・心理的因果性が共謀共同正犯の成立要件であるということ
になる。
⑴ 共謀共同正犯が成立するには、まず、客観的要件としての「共謀の事実」がなければ
ならない。この共謀には黙示の共謀も含まれるのか、具体的事例を挙げて検討する。
〔事例1〕数台の自動車で移動していた暴力団組長Ⅹが、同行する別の自動車に乗って
いた誤送役(スワット)の拳銃の所持に関する責任を問われた事案がある。Ⅹは、スワッ
トらに特別指示を下さずとも、スワットらがⅩを警護するため自発的に拳銃を所持し
ていることを確定的に認識しながら、それを容認しており、そのことをスワットも承知
していた。判例は、合意形成に向けた行為の存在を示すことなく「黙示の意思連絡」を
認定し、これに加えて指揮・命令しうる権限や警護を受ける地位を考慮することで共同
正犯性を肯定した。本決定は、黙示の共謀を認めたものといえるが、行為主義ならびに
個人責任の原則からすれば、各関与者の処罰にとって当該行為者と法益侵害を結びつける外部的行為の存在は不可欠であると解すべきであろう。
⑵ また、いくら共謀共同正犯といっても、それが成立するためには、共謀者のうちの一
部の者によって、実際に「共謀に基づく実行行為」が行われなければならない。
⑶ 通説では、さらに、以上2つの客観的要件に加えて、主観的要件として共謀者の「正
犯意思」が必要とされる。しかし、共謀者の「正犯意思」とは、実行者に対する(緩和
された)意思支配の存在、および故意の内容としての意思支配の認識を徴憑する間接事
実であって、これを文字通り行為者の心理状態を意味する実体概念として理解すべき
ではないだろう。
4. では、最後に、共謀共同正犯に関する具体的事例を検討していきたい。
⑴ 〔事例2〕新聞社の社長Ⅹが、社員Yを通じて、不利益な記事を掲載すると脅してA
から金銭を喝取した事案につき、判例は、知能犯における精神的加功の重要性を指摘
して「犯罪の発意者」であるⅩを恐喝罪の共同正犯とした。本件判例は、知能犯に限
定して共謀共同正犯を肯定した点に意義がある。
⑵ 〔事例3〕政党の地下組織の幹部Ⅹが、資金獲得のために銀行強盗を計画し、党員Y
らに実行した事案において、Ⅹを強盗罪の共同正犯とした。本件判例は、すべての犯
罪で共謀共同正犯が認められることに明言し、共同意思主体説によって共謀共同正
犯を根拠づけたが、共同意思主体説への批判は前述したとおりである。
⑶ 〔事例4〕政党の軍事組織の幹部Ⅹが、警官Aの襲撃をYと共謀し、Yの指導の下で
ZらがAに傷害を加えて死亡させた事案について、判例は、「共謀共同正犯が成立す
るには、2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思のもとに一体となって互
いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よ
って犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがって右のような関係
において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しないもので
も、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、その間
刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない」と判示した。本判決は、共同意思
主体説の色彩を残しながらも、他人の行為を利用して自己の犯罪を実現したという
間接犯罪類似説に通じる個人主義的な根拠づけを示し、これによって共謀の内容を
限定しようとした点で注目される。

以上