法律勉強道

法律について書きます。

刑法総論試験対策 正当防衛

「正当防衛について事例を4つ挙げて説明せよ。」
1. 正当防衛とは、急迫不正の侵害に対し、自己または他人の権利を防衛するため、やむを
えずした行為をいう(36 条 1 項)。正当防衛の要件をみたすと違法性が阻却される。
2. 正当防衛が成立するためには、①急迫不正の侵害に対し、②自己または他人の権利を③
防衛するため、④やむを得ずにした⑤行為であることが必要である。これらの要件につ
いて、事例を挙げて検討していく。
⑴ まず、「不正の侵害」について検討する。「不正」とは、「違法」を意味する。「不正」
の侵害は、構成要件に該当することを必要とせず、民事法上や行政法上の違法行為を
も含む。他方で、「不正の侵害」が物や動物による侵害を含むかも問題になる。
ア この点につき、規範違反説からは、行為規範は人の行為のみに向けられるから、動
物等は規範違反としての違法=不正を犯すことはできない。そのため、動物等に対
する正当防衛は認められず、補充性と法益均衡をみたす限りで緊急避難が認めら
れるにすぎないとする対物防衛否定説がある。しかし、人に対してすらその死傷を
伴う反撃が許されるのに、動物に対しては緊急避難の限度でしか反撃できないの
は不合理である。
イ これに対し、法益侵害説からは、保障規範による利益の配分・帰属に反する法益
害は、動物や物によるものであっても「不正の侵害」とする対物防衛肯定説が妥当
である。法益侵害説によれば、違法とは評価規範による否定的評価であって、法益
の侵害・危険を内容とする。保障規範は、この評価規範を法益主体側から表現した
ものに他ならない。したがって、対物防衛肯定説が妥当であろう。
ウ 対物防衛肯定説からは、〔事例1〕襲ってきた他人の飼犬を殺傷する行為は正当防
衛として、違法性が阻却される。
⑵ 次に、「急迫性」について検討する。この「急迫」とは、「法益侵害の危険が緊迫した
ことを意味する」が、具体的にどのような場合に当てはまるのか。
ア 〔事例2〕Ⅹは、アパートの2階通路で A に鉄パイプで殴打され、いったん鉄パ
イプを取り上げて同パイプで同人の頭部を1回殴打したものの、A に同パイプを
取り戻され再び殴られそうになったため逃げ出したところ、追いかけてきた A が
転落防止用の手すりの外側に勢い余って上半身を前のめりにした姿勢になったの
で、その足を持ち上げ2階から転落させたという事案につき、判例は、①Aの加害
の意欲と、②攻撃再開の蓋然性により急迫性の継続を肯定し、過剰防衛の成立を認
めた。
イ 他方、〔事例3〕政治活動グループⅭ派のⅩらは、集会を開くにあたって、対立す
るK派の襲撃を予期してバリケードを築くなどして備え、予想通りに襲撃してき
たK派のAらに対して鉄パイプで突くなどの反撃を加えたという事案につき、最高裁は、「単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利
用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵
害の急迫性の要件をみたさない」と判示した。
⑶ 防衛意思についても学説の対立がある。36 条は、自己または他人の権利を「防衛す
るため」と規定する。そこで、判例・通説は、防衛意思を正当防衛の要件と解し、そ
の内容は防衛事実の認識で足りるものとしてきた。
防衛事実の認識の要否は、正当防衛の客観的要件を満たすのにその認識を欠く「偶
然防衛」で問題になる。
ア この点につき、まず、正当防衛を認めるには、防衛者が防衛意思を有することを必
要とする防衛意思必要説が主張されるが、客観的に法秩序に合致した事態を惹起
している偶然防衛を既遂犯とするのは、行為無価値論のみで、しかも、防衛意思の
欠如という主観的事情のみで既遂を認めるものであって、意思処罰の疑いがある。
イ そもそも、正当防衛の正当化根拠は、行為規範ではなく保障規範=評価規範の領域
に存すするから、偶然防衛は保障規範による配分・帰属秩序に適った事態を招来し
たものとして、当該結果の惹起に関する限り正当化されると解する防衛意思不要
説が妥当である。
⑷ 最後に、「適合性」、「必要性」、「相当性」について検討する。
ア 防衛手段の「適合性」は、「やむを得ずにした」に含まれる「必要性」ではなく、、
「防衛するため」に含まれる「防衛行為性(狭義)」の内容をなし、これを欠く場合
には過剰防衛にもならないと解される。
イ 正当防衛が認められるためには、行為者が現実に採り得る防衛適合手段の中で最
も侵害性の少ない方法を選ばなければならない。
この意味での必要性は、
①いかなる代替手段が可能であるかを想定したうえで、
②その代替手段と現実に被告人の採った手段との間で侵害性の程度を比較するこ
とによって判断される。
ウ 正当防衛の成立には、防衛行為の「相当性」として、防衛行為による侵害法益の価
値が保全法益の価値を著しく上回るものではないという「緩やかな均衡性」を要求
すべきである。
エ また、相当性の判断時点については説の対立がある。
(ア) 〔事例4〕Ⅹ(女性)は、駅のホームで酒に酔ったAに絡まれ、コートの襟を
掴まれたため、Aの体を突いたところ、Aはホームから転落し、侵入してき
た電車とホームの間に挟まれ死亡したという事案がある。判例は、「Ⅹとし
て他にどのような採りうる方法があったか」に焦点をあて、結果として、Ⅹ
に正当防衛を認めた。これは、行為の危険性を行為者ないし一般人の見地か
ら事前判断する行為基準説=事前判断説を採ったものといえる。(イ) しかし、正当防衛を含めた違法性阻却事由は、法益侵害結果を含めた構成
要件該当事実全体を優越的利益によって正当化するものであることから
すれば、その判断に際して、現に行為から相当因果関係を経て生じた構成
要件該当結果を度外視することはできない。したがって、防衛行為が侵害
犯の既遂構成要件に該当するときには、防衛行為によって相手に現に生
じた法益侵害と、事後判断により防衛行為に出なかった場合に予測され
法益侵害とを比較して、両者間に著しい不均衡がある場合に相当性を
否定すべきとする結果基準説=事後判断説が妥当であろう