法律勉強道

法律について書きます。

刑法総論試験対策 不作為犯

「不作為について事例を5つ挙げたうえで説明せよ。」
1. 不作為犯とは、不作為によって犯罪を実現する場合をいう。この不作為犯は、真正不作
為犯と不真正不作為犯に分かれる。真正不作為犯とは、不退去罪(130 条後段)のように
構成要件が不作為の形式で規定されている場合をいう。これに対し、不真正作為犯とは、
殺人罪(199 条)のように構成要件が作為の形式で規定されている犯罪を不作為によっ
て実現する場合をいう。
2. 以上の不作為犯のうち、不真正不作為犯については、そもそも、その成立を肯定するこ
とが類推解釈にあたり罪刑法定主義に反するのではないかが問題となる。この点、構成
要件が作為の形式で規定されている場合でも、日常用語例として不作為による遂行形
態を含んでいると解することができるから、罪刑法定主義に反しないと考えていく。
3. では、いかなる場合に不真正不作為犯の実行行為性を肯定することができるのか。
ア そもそも、実行行為とは、特定の構成要件に該当する法益侵害の現実的危険を有する
行為であった。したがって、不作為も実行行為たりうるはずである。
イ もっとも、およそあらゆる不作為に実行行為性を認めるのは自由保障の見地から妥当
でない。
ウ そこで、不真正不作為犯の実行行為性を肯定するためには、不作為が作為による実行
行為と同視できる程の実質を備えていること、すなわち作為との構成要件的同価値性
があることが必要であると考えていく。
4. 不真正不作為犯の実行行為性を肯定するための要件である同価値性が認められるため
には、判例は、①法的な作為義務の存在と②結果回避の可能性・容易性が必要であると
解しているようである。以下、それぞれ検討する。
⑴ 現在の通説は、法益の維持・存続を保障する地位にあって結果防止のために作為義務
を負うものを「保証人」とし、この保証人という身分者の不作為のみが構成要件に該
当する考える。
では、法的な作為義務の発生根拠は何に求められるのであろうか。
ア まず、作為義務の発生根拠を法令、契約、条理(先行行為等)に求める形式的三分説
が考えられる。しかし、形式的三分説を採ると、不作為犯の処罰範囲が不当に拡大
してしまうおそれがある。
イ そこで、救助意思の有無にかかわらず、結果に至る因果関係に対する排他的な支配
を自らの意思で設定した者、並びに、親や管理人のように身分的・社会的関係から
継続的な保護・管理を要請される地位に基づいて、因果関係を排他的に支配してい
る者に作為義務が認められるとする支配領域説が妥当するであろう。
⑵ 法は、人に不可能を強いることはない。したがって、作為の可能性がない状況でなさ
れた不作為については、作為との同価値性が否定される。また、作為の可能性がないとはいえない場合であっても、作為がきわめて困難であった場合には、やはり作為と
の同価値性は否定されるというべきである。
以上の観点から、作為との同価値性が認められるためには、結果回避の可能性・容
易性が必要であると解される。
5. では、実際に、判例においてどのように要件を充足しているかをみていく。
⑴ 不作為はどのような行為に認められるか。
〔事例1〕自動車の運転中に通行人 A をはねて意識不明の重傷を負わせたⅩが、A を
救護するために自車に乗せ事故現場を離れたものの、途中で変心し、深夜、寒気厳し
く人に発見されにくい場所に未必の故意をもって A を放置して立ち去ったが、A は
同人を捜し求めて同所にさしかかった者らに発見・救助されたという事案がある。こ
の場合、A を車から降ろして放置したという「作為」も認められるが、この動作によ
って A の生命に対する危険が有意に高められたわけではないことから、A の生命と
の関係では不作為が問責対象行為として同定され、Ⅹに殺人未遂罪(203 条)が成立す
る。このように、特定の構成要件に該当する法益侵害の具体的危険を惹起する行為
(作為・不作為)に犯罪を認めるようである。
⑵ では、作為義務は誰に認められるのか。
ア 〔事例2〕会社の残業職員Ⅹが自己の不注意で木机が燃えているのを発見したに
もかかわらず、自己の失策が発覚するのをおそれて消火することなく立ち去った
という事案がある。判例によれば、Ⅹは「自己の過失行為により右物件を燃焼させ
た者(また、残業職員)」として消火すべき義務を負うとして、不作為による現住建
造物放火罪(108 条)の成立を認めた。本判決は、先行行為と管理者的地位を根拠に
作為義務を肯定したと解する。
イ 〔事例3〕自動車で通行人 A をはねて歩行不能の重傷を負わせたⅩが、A を自動
車に乗せて現場を立ち去り、降雪中の薄暗い路上に A を降ろしたという事案があ
る。本件において、判例は、道路交通取締法・同施行令(当時)の救護義務を根拠に
「保護責任」を認めているが、Ⅹに意識的な排他的支配の設定も認められる事案で
あって、支配領域説からも不真正不作為犯の要件である作為義務ないし保証人的
地位を認めることができると解するのが妥当である。
ウ 〔事例4〕シャクティ治療を施すことで信奉者を集めていたⅩが、脳内出血で意識
障害のあった信奉者 A を、入院中の病院から自分の滞在するホテルに移動させた
後に、死の結果を未必的に認識・認容しつつ医療措置を受けさせなかったために、
A は痰による起動閉塞を起こして死亡したという事案がる。判例は、Ⅹは自己の帰
責事由により A の生命に具体的な危険を生じさせ、さらにⅩを信奉する A の親族
から A に対する手当を全面的にゆだねられた立場にあるとして、Ⅹに不作為によ
殺人罪の成立を認めた。これは、有責な先行行為とともに、「保護の引き受け」
を作為義務の根拠として明示している。⑶ 結果回避可能性については、〔事例5〕Ⅹが、女性 A に覚せい剤を打って錯乱状態に
陥らせ、そのまま放置して死亡させたという事案がある。本件判例では、「十中八九
同女の救命が可能であった」として、Ⅹの不作為と A の死との因果関係を肯定した。
これは、結果回避可能性があったとして不作為による因果関係を肯定したものと解
する。
6. 以上のように、不作為にも犯罪の成立を認めることは妥当であり、不作為犯成立のため
には、①結果の回避を可能とする作為を②行為者が現実に遂行しえたことを要する。そ
して、作為可能性の判断は、違法類型としての構成要件において、行為者の身体的能力
を基準とした作為可能性が要求されるべきである。

以上