法律勉強道

法律について書きます。

刑法総論試験対策 方法の錯誤

「方法の錯誤について、他説を批判しつつ論ぜよ。
なお、解答中に事例を2つ以上あげること」
1. 認識していた犯罪事実と現実に発生した犯罪事実とが一致しない場合を「事実の錯誤」
という。事実の錯誤は、一方で、同一犯罪類型内で生じた「具体的事実の錯誤」と、異
なる犯罪類型間で生じた「抽象的事実の錯誤」とに分類され、他方で、客体の同一性や
属性を誤認した「客体の錯誤」、認識した客体とは別の客体に結果が生じた「方法の錯
誤」、認識と異なる経過をたどって結果が発生した「因果関係の錯誤」に分けられる。
この方法の錯誤につき、認識していない客体に生じた結果に対しての故意犯が成立す
るかが問題となる。なお、故意犯が認められない場合、38 条 1 項により不可罰若しく
は過失犯となる。
2. 〔事例1〕Ⅹが A を狙って発砲したところ、弾丸が逸れて予想外の B を死亡させたと
いう方法の錯誤の事例につき、
Ⅹに故意犯が成立するか検討する。
⑴ 行為者の認識した事実と発生した事実とが具体的に符合する限りで故意犯の成立を
認める具体的符合説(具体的法定符合説)がある。この説によれば、本件では、行為者
の故意は A にのみ向けられているので、A に対する殺人未遂罪及び B に対する過失
致死罪が成立する。
⑵ 構成要件の認識があれば規範に直面しているという理由から、認識事実と発生事実
とが同一の犯罪類型に属する限りで故意犯の成立を認める法定的符合説(抽象的法定
的符合説)がある。
しかし、法定的符合説が故意の内容を「およそ人を殺害する意思」として抽象化す
る意思であるとすれば、故意は事実的基盤から遊離した観念的な存在となり、外界に
生じた犯罪事実をその意思の所産として行為者に帰属させる機能を果たせなくなる。
方法の錯誤では、認識した構成要件該当事実と発生した構成要件該当事実の同一性
が欠けるのであって、故意には構成要件該当事実の認識が必要であるという前提か
らも、具体的符合説の正当性が導かれる。が、判例・通説は法定的符合説(抽象的法
定符合説)と採用している。
3. 次に、具体的事実の錯誤につき法定的符合説に立脚した場合には、更に成立する故意犯
の個数が問題となることがある。以下、検討する。
〔事例2〕Ⅹが、A を狙って発砲したところ、A を貫通したうえ、予想外の B を死亡さ
せたという事例につき、
Ⅹに複数の故意犯が成立するのは妥当なのであろうか。
責任主義の観点から、1つの故意について故意犯は1つのみ成立するとして、発生し
た犯罪事実のうち最も重い結果に対し 1 つの故意犯の成立を認めれば足り、それ以外の結果に対しては、原則として過失犯が成立するにとどまるとする一故意犯説が
ある。本件では、重い A に対する殺人罪故意犯が成立、B については過失傷害罪
が成立し、両罪は観念的競合(54 条 1 項前段)として科刑上一罪として処理される。
しかし、〔事例3〕A を狙って発砲したところ、A に重傷を負わせたうえ、予想外
の B を死亡させたという場合には、最も重い結果が生じた B に対する故意を認め A
について過失を認めることになるが、これは A に対する故意を B に転用することを
意味し、故意が心理的事実であることを無視するものである。
⑵ そもそも法定的符合説は、故意の内容を構成要件の範囲で抽象化して考えるのであ
るから、故意の個数は観念できないというべきである。そこで、発生した事実の数だ
故意犯が成立すると考える数故意犯説が妥当であろう。このとき、1 つの故意に複
数の故意犯が成立することになるが、観念的競合として科刑上一罪となるから、初段
上格別の不都合は生じないはずである。本件においては、A と B の両名に対して故
意が認められ、結果のある A に対しては殺人罪、結果のない B に対しては殺人未遂
罪が成立する。また、A が負傷、B が死亡した場合では A に対する殺人未遂罪と B
に対する殺人罪が成立する。なお、二罪が成立するがそれぞれの罪は観念的競合から
科刑上一罪として処理される。
以上