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刑法総論試験対策 正犯と共犯

「間接正犯と教唆犯について事例を4つ挙げて説明せよ。」
1. 間接正犯とは、「人を殺した」といった各則の構成要件が直接適用されるものであるか
ら、直接正犯と同じ意味で犯罪の実現過程を支配している場合に成立する。それは、行
為者が他人の行為を意のままに利用して結果を惹起したといえる場合であろう。間接
正犯の様態としては、強制による支配や責任無能力者の使用のほか、錯誤の利用、緊急
避難等の適法行為の利用がある
2. 一方、教唆犯とは、人を教唆して犯罪を実行させることであり(61 条 1 項)、従犯と並
んで狭義の共犯の一つである。ここで「教唆」とは、他人に犯罪を決意させることを意
味する。
教唆犯では、まず、その成立の前提として正犯が現実に実行行為に出たことを要する
か(実行行為性)が問題になる。法益侵害説の立場からは、正犯者が実行に出ることで一
定の法益侵害が外界に現出するのを待って教唆犯の成立を認める共犯従属説が妥当で
あろう。
また、正犯者が犯罪成立要件をどこまで具備している必要があるのか(要素従属性)も
問題になる。まず、教唆犯の成立には、正犯者の構成要件該当性、違法性、責任を必要
とする極端従属性説がある。しかし、責任非難は個人的・一身的な問題であるから、正
犯者の責任は教唆犯の成立にとって重要ではない。そこで、教唆犯の成立に正犯者の構
成要件該当性と違法性を必要とする制限従属説が現在の通説となっている。
3. 右にみるように、間接正犯と教唆犯は、他人を犯罪に誘致するという共通点がある。そ
こで、いかなる場合に正犯性を認めて間接正犯が成立するか、換言すれば、広義の正犯
と狭義の共犯の区分の基準が問題となる。
⑴ まず、正犯性の指標を「正犯意思」に求め、その有無によって広義の正犯と狭義の共
犯を区別する主観説がある。しかし、原則的関与類型である正犯の要件として利益獲
得の意欲を要求するのは過剰である。
⑵ 次に、構成要件概念から出発し、自ら構成要件該当行為=実行行為を遂行した者が広
義の正犯であるとする形式的客観説がある。しかし、この立場を徹底させるなら、共
謀共同正犯はもちろん間接正犯も否定されてしまう。
⑶ また、実行行為を実質化し、法益侵害の具体的な危険を含んだ行為に正犯性を認める
実質的客観説がる。この論者の多くは、間接正犯に関する限り、この危険の有無を被
誘致者が「規範的障碍」になっているか否かによって判断する(規範障碍説)。しかし、
規範的障碍の有無と危険の程度との間に直接の関係はない。
⑷ そこで、犯罪の実現過程を通じて全体として支配し統制する者を広義の正犯とする
行為支配説が妥当であろう。本説からは、直接正犯は自己の身体運動の支配を通じて、
共同正犯は分業による機能的行為支配を通じて、間接正犯は被誘致者の意思の支配を通じて犯罪事実全体を統制する者とされる。
4. 上記の行為支配説から事例を検討していく。
⑴ 〔事例1〕Ⅹは、保険金を得る目的で、かねてからⅩを極度に畏怖していた A に対
して、事故に見せかけて乗車した車ごと海に飛び込み自殺するよう暴行・脅迫を交え
て執拗に迫ったところ、A は車で海に飛び込んだ後に脱出して逃げるほかないと考
えて車ごと海に飛び込んだという事案につき、判例は、Ⅹは被誘致者 A の行為を利
用しているが、Ⅹは A を暴行強迫による恐怖で命令に従うほかないほどの精神状況
に至らしめており、Ⅹは A を意のままに支配したといえ、Ⅹに殺人未遂罪の間接正
犯を認めている。
⑵ 〔事例2〕12 歳の養女 Y を連れて四国巡礼中に、Y に命じて現金等を窃取させたⅩ
について、判例は、Y は 12 歳であり、善悪の判断能力を有するが、Y が養父である
Ⅹを頼るしかなかったことやⅩに日ごろの言動への畏怖から、Y は意のままに行動し
たといえるため、正犯性が認められるとし、Ⅹに各窃盗の間接正犯の成立を認めた。
⑶ 〔事例3〕12 歳の長男 Y に指示命令してスナックで金品を強取させた母親Ⅹについ
て、判例は、「Y には是非弁識能力があり、Ⅹの指示命令は Y の意思を抑圧するに足
る程度のものではなく、Y は自らの意思により本件強盗の実行を決意した」といえる
ことから、強盗罪の間接正犯は成立しないとする一方、「Ⅹは、生活費欲しさから本
件強盗を計画し、Yに対し犯行方法を教示するとともに犯行道具を与えるなどして
本件強盗の実行を指示命令したうえ、Y が奪った金品をすべて自ら領得したこと」か
ら、強盗の教唆犯ではなく、共同正犯が成立するとした。
⑷ 〔事例4〕患者Aに恨みを抱いていた看護師Yに、「病死として処理してやるから、
毒薬を注射してはどうか」と耳打ちした医師Ⅹは、Yの実行行為により結果が発生し
た場合、61 条 1 項によって殺人罪の「教唆犯」となる