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刑法総論試験対策 承継的共犯

「承継的共犯について事例を4つ挙げて説明せよ。」
1. 承継的共犯においては、先行者の実行の着手後、犯罪の終了前に参加した後行者は参加
前に生じていた事実に関する先行者の責任を継承し犯罪事実全体について(広義)の共
犯となるのか、それとも自らが関与した時点以後の事実についてのみ共犯となるのか
が問題になる。以下、具体的事例を挙げて検討する。
〔事例1〕YがAを強盗目的で殺害した後にYから事情を知らされたⅩが財物の取得
に関わった場合。
〔事例2〕Yが詐欺目的でAを欺罔した後にYから事情を知らされたⅩが金員を受領
した場合。
〔事例3〕YがAに暴行している途中で事情を知らされたⅩが暴行に加わったが、Ⅹの
参加前の暴行によってAが傷害を負っていた場合。
〔事例4〕事例3でAの傷害がどの時点の暴行から生じたか不明であった場合。
各事例のⅩはどの範囲で罪責を負うのであろうか。
⑴ まず、先行事実を認識・認容している限り後行者は先行事実を含めた犯罪事実全体に
責任を負うとする全面承継説がある。本説からは、事例1のⅩは強盗殺人罪の共同正
犯、事例2のⅩは詐欺罪の共同正犯、事例3、4のⅩは一連の暴行が包括一罪となる
限りで傷害罪の共同正犯となる。しかし、当人が左右しえない過去の事実の認識・認
容によって、過去の事実に関する責任を基礎づけるのは心情刑法であって行為主義
に反する。
⑵ 次に、先行者の行為の効果を利用した限度で承継的共犯を認める限定承継説がある。
本説からは、事例1のⅩは、Aの反抗抑圧状態は利用しているが死の結果は利用して
いないので、強盗罪の共同正犯、事例2のⅩは、Aが錯誤に陥っている状態を利用し
ているので、詐欺罪の共同正犯(受領だけでは重要な役割だといえなければ詐欺罪の
従犯)、事例3、4のⅩは、傷害の結果を利用しているわけではないので、暴行罪の
共同正犯が成立する。しかし、行為の「利用」は、「因果性」に代替しうるものでは
ない。限定承継説の「意思連絡を伴った利用」は、自己の行為と因果性のない他人の
行為の利用であって、これによって先行事情の負責を基礎づけるのは、全面承継説と
同様に心情刑法であるとの批判を免れない。
⑶ そこで、途中参加者には参加後の行為に惹起された犯罪事実についてのみ共犯の成
立を認める承継否定説が妥当であろう。当該犯罪の保護法益の侵害・危険は、正犯共
犯を問わず、すべての関与者にとって処罰の根拠をなすものであって、それに対する
因果性は処罰にとって不可欠であり、因果性を欠いた過去の法益の侵害・危険を共犯
者に負責することは、惹起説の基礎にある個人責任の原則および行為主義に反する
といわねばならない。本説からは、事例1のⅩは占有離脱物横領罪または窃盗罪の共同正犯、事例2のⅩは、Ⅹに新たな欺罔が認められない限り詐欺罪の共犯は不成立、
事例3、4のⅩは暴行罪の共同正犯となる。
2. では、承継的共犯とは反対に、犯罪終了以前のいずれかの時点で犯意を放棄し犯罪への
加功をやめた関与者は、他の関与者によって遂行されたその後の犯罪についてどこま
で責任を負うのであろうか。
この点に関しては、着手前の離脱の表明と了承は、心理的因果性の遮断を徴憑する1
つの事情に過ぎず、それ自体が絶対的基準になるものではなく、他方で、着手後にあっ
ても自己の寄与による因果性を排除した者は、他の関与者の以後の行為によって生じ
た結果の責任を負うことはないとする因果性遮断説が妥当であろう。
現在支配的な個人主義的な共犯観からは、広義の共犯も自己の行為についての責任
を問われるのであって、自己の関与行為との因果性が共犯としての帰責の限界をなす。
この見地からは、実行の着手の前後を問わず、その関与者の寄与と他の関与者の行為と
の因果性が遮断された場合には、共犯関係からの離脱が認められ、以後の他の関与者の
行為や結果は離脱者には帰責されない。
3. 以上のように、承継的共犯はおいては、途中参加者には参加者の行為に惹起された犯罪
事実についてのみ共犯の成立を認める承継否定説が妥当であろう。また、離脱において
は、前述のように因果性遮断説が妥当であろう。

以上